龍や鳳凰などの架空動物から自然界の鳥や動物、梅、桜など、和紙を使った貼り絵やPhotoshop、illustratorなどを使ったCG作品のアーティスト、イラストレーターの諏訪間千晃さん。
諏訪間 千晃
作品サイト:たまゆら庵 http://tamayu.rer.jp
デザインの現場からイラストレーターへ
問 諏訪間さんは89年に多摩美術大学二部デザイン学科に入学していますが、当時の美術大学のデザイン学科はどういう状況だったのですか。
答 デザインの世界だけではないと思いますが、世代的に大学に入学した時代はコンピュータが大学に導入され始めた時期に当たります。私は大学ではプロダクトデザインを専攻して、インタフェースのデザインを学んでいましたが、多摩美二部でも私が入学した1989年にはじめてMacが導入され、黎明期のIllustratorやPhotoshopを使用していました。
問 インタフェースのデザインとはどういうものですか。
答 インタフェースとは、あるものとあるものの境界面(インタフェース)を指しますが、人とモノ、あるいはモノと事の間をデザインするというような意味です。具体的には、ここのようなカラオケ店の場合を例にとると、カラオケ操作画面の操作性、 色彩や形、アイコンなどのグラフィカルな要素のデザインもそうですし、ハードウェアの形状なども使いやすさを主点に置いてデザインすることもそうです。
問 大学卒業後に勤務したデザイン会社でも同じようなことを。
答 そうですね。航空機の予約画面やデータ管理システム、CD-ROMなどの画面デザイン、インタフェースデザインをしていました。
問 2年後独立してからはどんな仕事を。
答 色々な仕事をしていましたが、独立して2年後の1996年から母校(多摩美術大学)で非常勤講師の仕事もしました。
問 きっかけは?
答 先程も話しましたが当時はコンピュータがどんどん大学に入って来て、世の中的にもコンピュータを使ったデザインが急速に求められていた時代になって来ていました。にもかかわらず誰も教える人がいないという状況があって声がかかったのだと思います。大学では主にillustratorとPhotoshopの授業を担当していました。他に都立大でコンピュータリテラシーの授業も担当していた事もあります。教えることで私自身も随分勉強になりましたね。
問 講師の仕事以外は。
答 独立して当初はインタフェースの画面デザインとかCD-ROMのデザインなどが主でした。イラストの仕事も今のような作風ではありませんが少し手がけていました。
問 イラストの仕事を本格的に始めたのはいつ頃ですか。
答 学校の仕事を辞めた頃からです。最初は趣味で、3DCGで絵を描いてホームページで発表していましたが、3DCGですと制作に大変時間がかかりますので、作品はその後IllustratorとPhotoshopを使った2DCGの作品に移行していきました。そのうちに他のデザインの仕事よりも、絵を描く仕事を増やしたくなったので、ホームページの見せ方をイラストのお仕事を受注しますという風に変えたところ、少しずつお話が来るようになりました。
問 どういった関係からですか。
答 和風の絵を中心に描いていたので年賀状素材集関係が多いです。年賀状素材集の表紙の3DCGのキャラクターを数年間担当していた事も。最近はネット配布用の年賀状素材として貼り絵をつくるお仕事があります。他にCDのジャケット用のイラストやポケモンカードの会社などもありました。ポケモンカードのお仕事
はホームページの中の鳳凰や龍のイラストがきっかけになったのかと思います。
問 ポケモンカードですか。
答 ポケモンカードは何人かのイラストレーターがそれぞれのカードを分担して描いています。イラストレーターによって作風が違って、見ているだけでも面白いですよ。また、出版社の企画でIllustratorのノウハウ本の記事も担当した事もあります。絵を作りながら、制作過程の画面をキャプチャーして残し、記事を書きました。
記事はこちらに紹介されています。
http://blog.goo.ne.jp/tamayura-an/e/de09ffb1e167a4ad54259f4a67da0b92
問 イラストの描き方もイラストレーターによって違うそうですね。
答 コンピュータでイラストを描く場合はタブレットを使って最初から最後まで描いていく方が多いのですが、私はちょっと違っていて、illustratorでパスを作ってPhotoshopで色をつけていく手法で主に制作していて、切り絵に近い感覚なんですね。最近は最初からタブレットで描いたりすることもありますけど。
問 切り絵に近い感覚の手法のよさはどこにありますか。
答 例えば鳥の翼では羽を一枚一枚重ねるようにつくっていくので、表現が細かく、輪郭がシャープな印象になります。3DCGでの制作の感覚にも似ています。
独自手法で表現する貼り絵
問 仕事の項目の中に貼り絵とありますが、切り絵やちぎり絵とどのように違うのですか。この手法は諏訪間さん独自のものでしょうか。
答 今は色々な独自の表現手法で描かれているイラストレーターさんも多いですから、手法として際だって特徴的というわけでもないと思いますけども、独自と言えば独自です。
染め和紙を多用する点ではちぎり絵に近いのですが、紙をちぎるだけでなく、カッターを使って切ったりしますのでちぎり絵と言うはやめました。また切り絵というと黒い紙を使って線的な要素で表現していくものを指す事が多いので、私の作品は貼り絵としています。
問 具体的には、貼り絵の制作はどのように制作をすすめていくのでしょうか。
答 まず、対象となる動物などの写真を色々みて、スケッチします。だいたい動物の形がわかってきたら、構図を考えて下絵を描きます。下絵はコンピュータに取り込んで、Photoshopで色を塗ってだいたいの色の配置を考えておきます。
問 貼り絵でもコンピュータの作業があるんですね。
答 はい。色鉛筆などで色を塗って考えてもいいんですけど、色の計画を考えるには消したり描いたりはやはりコンピュータが便利です。そのあと下絵はトレーシングペーパーにコピーし、転写ペーパーを使って染め和紙に下絵のパーツを転写し、そして和紙をカッターで切り抜きます。基本的には切り抜いた和紙を下絵どおりに並べて貼っていく感じですが、和紙が薄くて扱いにくいときは和紙の厚みを補強するために裏に別の和紙を貼ったり、例えば翼なら、あらかじめ切り抜いた羽のパーツを、一枚の和紙に何枚か張り込んでひとつの翼にまとめてから切り抜いて翼のパーツにしたり、という作業もあります。このあたりが先ほどお話ししたCG作業との共通性ですね。
問 偶然共通性があったのでしょうか。
答 偶然というより、私がしていたCGでの制作方法が貼り絵に生かされた、という感じですね。なにか絵をつくろう とするとき、頭の中ではCGも貼り絵も日本画も同じようなプロセスで進めようとしているな、と思う事があります。表現者によってそれぞれみなさんこういう プロセスがあるのかなと思います。
ニューヨーク展示~前掛け専門店とコラボレーション
問 偶然共通性があったのでしょうか。
答 偶然というより、私がしていたCGでの制作方法が貼り絵に生かされた、という感じですね。なにか絵をつくろうとするとき、頭の中ではCGも貼り絵も日本画も同じようなプロセスで進めようとしているな、と思う事があります。表現者によってそれぞれみなさんこういうプロセスがあるのかなと思います。
問 話は変わりますが、一昨年でしたかアメリカで作品を発表なさっていますね。きっかけは。
答 一昨年の8月に小金井市内の名刺交換会で前掛け専門店※1有限会社エニシングの西村さんと知り合ったのですが、在ニューヨーク日本国総領事館のギャラリーで前掛けの展示をするのにあたって、普通の前掛けだけでなく作品的なものも展示したいという事で、色々相談しながら、特別に長く織った前掛け布に貼り絵を施し、掛け軸の形に仕立てた作品を制作しました。これをNYに持参し、11月頭から1ヶ月間日本国総領事館ギャラリーに展示しました。また、同時開催でニューヨークの紀伊国屋でもエニシングさんの展示会があって、前掛けの布で作った小さなタペストリーに貼り絵を貼るイベントをやりました。ハリケーンで大変な被害を受けた直後にもかかわらず、色々な出会いがあり、楽しい時間が持てました。
問 帰国後にも展示会をされましたね。諏訪間さんとはその展示会で出会いました。
答 はい。NYでの展示内容を見てみたいというお声をエニシング、私ともに地元である小金井の方々からたくさんいただいていたので、武蔵小金井の武蔵野画廊さんのご好意で2013年4月に前掛けと作品を紹介する展示会を行いました。会期中たくさんの方にご来場いただいて、エニシングと私の活動をご紹介することが出来、貴重な機会になりました。erakuのほうに出品するお話もこの展示会がご縁でしたね。
問 ※1武蔵野画廊で見かけたミニバッグも前掛けの素材を使っていましたね。
答 はい、ミニバッグはエニシングさんと相談しながらサイズや帆布の色などを決め、シルクスクリーンでイラストをプリントしていただきました。武蔵野画廊での展示の際にはこれに筆でサインと色を足して販売していました。
CG、貼り絵、日本画作品の個展開催
問 個展も開催されたそうですね。残念ながら行く事が出来ませんでしたが…
答 個展は武蔵野画廊での前掛け展の1ヶ月後にやはり小金井の市民交流センターのギャラリーで行いました。個展を行うにはかなり広い会場だったので、これまで制作してきたCG、貼り絵、日本画の作品の大部分を一気に展示しました。
問 何点くらい展示されたんですか。
答 65点ほどです。かなり点数が多かったので大変でしたが、色々な作品を見ていただくことで自分の作品の全体像を客観的に見る良い機会になりました。手ぬぐいやバッグ、ポストカードなども販売したのですが、erakuに出品する商品の検討にもかなり役にたちましたよ。作品集の「たまゆら集 2013」はこのときにつくりました。
問 貼り絵作品もCG作品も、諏訪間さんの作品に共通するのは日本画のような構図ですね。
答 構図や題材、色の使い方など色々な面で日本画を意識しています。大学受験は仕事につながることを考えてデザインを専攻しましたが、昔から洋画より日本画に惹かれるものが多かったんです。和風のイラストを中心に制作をするうちに、顔料や膠を使った本来の日本画の手法も学んだほうが良いのではないかと思い、日本画の教室にも数年間通いました。
問 作品集の「たまゆら集 2013」を拝見すると、諏訪間さんの作品のジャンルとして貼り絵、CG、日本画の三つのジャンルの作品が載っていますが、今後の方向性は。
答 どのジャンルも場合に応じて制作していきたいと思っていますが、今のところ仕事以外の作品としては日本画や貼り絵を進めていきたいなと思っています。ただ同じ手法を続ける事にはそれほどこだわりはなく、どんどん発展させていきたいほうなので、新たな表現方法に向かうこともあるかもしれませんね。
ありがとうございました。
※有限会社エニシング
http://www.anything.ne.jp/index.html
※武蔵野画廊
http://musashino-garo.jp/

諏訪間 千晃(東京都 小金井市)
作品サイト:たまゆら庵 http://tamayu.rer.jp
経歴 | |
1969年 | 神奈川県藤沢市生まれ |
1993年 |
多摩美術大学二部デザイン学科卒業 |
1995年 | 独立後、イラストレーター、デザイナーとして活動 |
1996年 | 多摩美術大学 情報デザイン学科等 非常勤講師(〜2006年) |
2005年 | 8月 RGMイラストレーターズ展(イラストレーターグループ展) |
2012年11月 |
「肚(ハラ)を決める… 日本伝統の’前掛け’展」 参加 |
2013年3月 | 「日本の伝統〜前掛け展」参加 小金井市 武蔵野画廊 |
2013年4月 | 個展「たまゆら展2013」諏訪間 千晃/和のイラスト・作品展 開催 (小金井市民交流センターギャラリー) |