家庭通信社代表 関根由子
地方新聞社へ家庭欄の記事を配信する家庭通信社代表をつとめる傍ら、1997年から雑誌(途中中断もあったが)に伝統工芸を継ぐ女性の職人の生き方を連載、追い続けて来た関根由子さん。
昨年、それをまとめた「伝統工芸を継ぐ女たち」(學藝書林刊)が、最近の手作りのブームや将来どういう夢を持って生きていけばいいか迷っている中高校生や若い女性の間で読まれている。
30〜40代女性職人を取材
問 若い女性の職人を取材するきっかけは?
答 1997年にホームセンタードイト発行のDIYマガジン「ドゥアイ」から連載企画の相談を受けたのがきっかけです。当時、若いOLや学生が陶器や織物などの伝統工芸に興味を持つようになって、中には伝統工芸の世界に飛び込む人も出て来ていました。一方で、伝統工芸職人の後継者不足がいわれていて、私もよく話を聞いていました。私自身、以前から工芸作家ではなく、伝統工芸の産地で働く名もない職人がどうしてこの世界に入ってきたのかとか、作品を作る姿勢に興味を持っていました。それで30〜40代の若い女性の職人をテーマにした企画を提案して、始まったのが「女の職人」の連載です。
問 最初は女性の職人を見付けるのも大変だったようですね。
答 伝統的工芸品産業振興会を通じて紹介してもらったり、伝統工芸の産地の組合に「若い女性の職人はいませんか」と電話をして探しました。少なくても10年近く修業して、しっかり技術を身につけた職人でなくては掲載に耐えられません。そうした条件もあって「いないよ」と言われることが多かった。でも続けているうちに、次第に職人を紹介してくれる人もでてきて、連載が楽しみで雑誌の会員になったという声も聞くようになってきました。
問 何人くらい取材したのですか。
答 廃刊になる2007年春号まで10年間で56人の女性職人を取材しました。苦労はあったけど面白かったですね。
問 その後「おしゃれ工房」(NHK出版 後に「すてきにハンドメイド」に改題))で再び女性の職人をテーマにした連載をしていますね。
答 「おしゃれ工房」は2009年4月号からです。「ドゥアイ」に掲載した56人とその後紹介いただいた女性職人から絞り込んで合計36人の取材をしました。誰でもいいというわけにはいきません。誰からも評価される女性職人となるとやはり絞られてきます。
問 彼女たちはどういう経緯でその世界に入っていったのでしょうか。
答 女性の職人は大きく3つのタイプに分かれます。一つ目は全く関係のない世界から飛び込んでくるタイプです。二つ目が親の実家を継ぐタイプ。背景に伝統工芸が先細りで食べていくのが大変な状況があります。親は息子がいても継がせたくないし、継がせない。ところが娘の場合はちょっと事情が違っています。最初「結婚まで」と親の手伝いをしていたのがだんだん「父親の跡を継ぐのは自分しかいない、この技術は絶やしてはいけない」と思うようになって、ひたすら打ち込んでいく。三つ目が結婚した相手が伝統工芸の職人で、手伝うために見様見真似で始めたというタイプです。
問 「伝統工芸を継ぐ女たち」として出版されるようになったきっかけは。
答 連載中から一冊の本にしたいという思いはあったのですが、出版不況で話がまとまらず、知り合いの編集者の紹介で學藝書林から出すことが出来ました。お陰さまで中高生向けの推薦図書に指定されたり、生き方に迷っている若い女性を中心に読まれているようです。
女性の職人展を企画
問 関根さんは執筆活動だけでなく、私も一度池袋で拝見しましたが女性職人の作品展の企画をしていますね。
答 先程も触れましたが、伝統工芸を取り巻く環境は大変厳しい。彼女たちは金銭的に恵まれない中で、厳しくつらい修業を黙々と続けてキャリアを重ねています。年齢的に私の娘くらいの世代です。なにか応援できないか、仲間づくりが出来ないかと考えて始めました。横のつながりが出来れば励まし合うことも、アイデアを出し合ったり、合同で作品展もできます。彼女たちは職人としてライバル関係にあるけれども幸い分野はかぶっていません。それで2004年8月に「めざせ未来の女性工芸士展」を池袋のメトロポリタンプラザビルで始めて、2009年までやりました。
問 昨年4年ぶりに復活したそうですね。
答 そうです。昨年7月に「おしゃれ工房」などに掲載した36名の職人に新しい人たちを加えて46名の「輝け若手女性職人展」(伝統工芸 青山スクエア)を企画しました。幸い反響も大きくて今年も実施することが決まっています。その後の10月に企画した九谷焼や東京染小紋、山中漆器、江戸指物など「若手女性職人8人展」(渋谷ヒカリエ)も好評で、注目度も高くなって来ていることを肌で感じます。皆さん高い技術を持っています。いろんな機会に若い彼女たちの作品に触れていただければと願っています。
株式会社學藝書林
東京都中央区八丁堀2-3-5
TEL.03-3552-5904(編集)
データ
1946年 | 東京都生まれ |
1969年 | 日本女子大社会福祉学科卒業 |
現 在 | 家庭通信社代表 |
編著書 | 「生き路びきー自分らしい生き方を探す」(家庭通信社篇・博文館新社発行) |