世界を旅して10年、巡りあったガラス細工日本では珍しいガラスアートで職人の道を極める

 学校卒業後、20代をワーキングホリデーで世界各地を旅して過ごした。30代に入って真剣に将来のことを考え選んだのが、カナダ・バンクーバーで偶然見つけたガラス細工だった。以来ガラス制作に熱中し、独学にて技術を身に付けてきた。最近はホウケイ酸ガラスと酸素バーナーを使った日本では珍しいガラス細工作家として注目されるようになった川西洋之にインタビューした。

 

ガラス細工作家 川西洋之

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2006年手探り状態でスタート、最初の作品はペンダント

 この世界に入るきっかけは

 高校時代から海外生活に興味があって専門学校を卒業後にワーキングホリデーで世界各地を旅していました。スノーボードをやっていたこともあって最初に行ったのがカナダのウィスラーです。ある時、バンクーバーで偶然ホウケイ酸ガラスアートを見てこれは面白いなと思ったことがきっかけです。

 それでガラス細工の世界へ。

 いえ。最初はこういう世界があるんだなという興味がわいた程度です。それからしばらくカナダにいて、次にオーストラリア、南米と滞在して10年程は気ままな日々を過ごしていました。その時培ったいろいろな経験は今でもガラス作りに沢山の影響を与えてくれます。30歳を過ぎ、日本に戻ってきたとき将来を見据えて何かをしたいとおもいました。そんな時、バンクーバーで見て以来ずっとやってみたいと思っていたガラス細工を始めたのです。

 その頃、ホウケイ酸ガラスアートをやっていた人はほとんどいなかったと聞きましたが。

 僕が始めた2006年頃は日本では、まだやっている人はわずかで目新しいガラス細工だったように思います。ホウケイ酸ガラスアート発祥の地はアメリカ・オレゴン州ですが、歴史も30年くらいの新しいガラスアートです。始めた当初は酸素バーナーはどうやって使うのか、材料は何なのかも知らず、右も左も分からない状態でした。

 最初に始めたことは?

 インターネットで情報を探素すことから始めました。インターネットが普及していなかったら恐らくできなかったと思います。インターネット以外にも、このガラス細工をやっている人達との情報交換を通じて、自分なりに工夫して勉強しました。

 最初の作品は何でしたか。

 ペンダントです。始めて2年くらいすると模様の美しさが注目され、物珍しさもあって扱ってくれるお店が出てきました。

 

2000〜2500°Cで溶かし、新しい着色技法で繊細で美しいガラス細工の世界を

 

atorie01 ホウケイ酸ガラスアートとはどのようなガラス細工なのですか。

 ガラス細工はいろんな種類がありますが、僕が扱っているホウケイ酸ガラスは透明度や硬度が高く、耐熱性にも優れていて軽量なのが特徴です。一般的には耐熱ガラスとして知られておりビーカーなど耐熱容器や理化学の実験器具に利用されているものです。

 ホウケイ酸ガラスは他のガラス細工に比べて融点が非常に高く、ガラス細工で馴染みのあるトンボ玉で700〜800°C、ガラス食器でも1000°Cですが、ホウケイ酸ガラスは1300°Cにもなります。そのため約2000〜2500°Cの高温の炎が出せる酸素バーナーでガラスを溶かして加工や細工をしていきます。それで通常のガラス細工に比べて繊細なガラス細工ができるというわけです。油断をすると火傷などの事故につながること事はもちろん、美しい模様を生みだす事も出来なくなってしまうので、細心の注意を払って作業をしています。

5 美しい模様はどのようにしてできるのですか。

 フューミングと呼ばれる着色技法です。これもまだガラスの歴史の中では新しい技法で、無垢のホウケイ酸ガラスに純金や純銀を吹き付けてガラス内部に閉じ込める事で様々な色合いを発色させる技法です。ホウケイ酸ガラスが持つ透明感と浮かび上がるような立体的な模様の美しさが魅力です。自分は特に、このフューミングに特化してガラスを制作してきました。中でも透き通るような、緑色や青白い色を出すのは難しく苦労しました。経験を積み技術を磨き、ようやく濁りのない光を美しく通す澄んだ色合いの模様を出せるようになりました。

 技術が自分の物になったと思ったのはいつ頃ですか。

 最近になり、ようやく思い通りの作品が作れるようになってきました。もちろん、まだまだ磨かなければならない技術も沢山ありますが・・・。和のテイストを入れるようになって作品の幅も広がり、より一層いろいろな作品を作ってゆきたいと思うようになってきました。

 

日本では希少の人気のガラスペン、制作の秘密は集中力と根気

 

1 ペンダント、器、そしてガラスペンと作品の種類も増えてきていますが、中でもガラスペンの人気が高いようですね。

 先ほどお話しした通り、最初はペンダントなどのアクセサリーをメインに制作活動を行っていましたが、より生活に密着した小皿などの器類を作るようになりました。そんな中、より芸術性と、実用性を両立できる作品作りがしたくなりガラスペンの制作を始めました。もっとも繊細な部分であるペン先は重要で、溝を一本一本を丁寧に作り上げていきます。ペン先を360°加工することでペン先のどの面でも書け、しかも筆圧をかけなくてもペンの重さだけで書けるように工夫しています。ガラスペンそのものは以前からあるものですが、書いているときのカリカリとした感触が嫌だという声が多く聞かれました。そうした弱点を克服し実用性が低いと思われがちなガラスペンの概念を覆したいと思いながら、ペン先の研究をしてきました。集中力と根気が、この機能性を高めたガラスペンのペン先を支えています。

 ガラスペンの作家は川西さん以外にいるのですか。

 僕のように柄の部分もペン先の溝もすべて作っている人は日本では少ないと思います。

 最近、万年筆の展示会に出品して随分刺激を受けたそうですね。

 万年筆のコレクターが多いのに驚きました。求めているものも多様で要求される質もとても高い。一方で、ガラスペンのいいところを改めて気付かされたと言うか、教えてもらったように思います。

 

伝統工芸とは違う技術を極めたい、目標を設定してたゆまぬ努力

 

3 たとえば。

 ガラスペンは水で簡単に洗えるためいろんなインクを使えるという利点があります。万年筆はインクによって滑らかさや書き味が違うし、インクを替えるときも注意が必要です。その点ガラスペンは容易にインクを換えられるため、何万種もあるインクの質や色を一本のガラスペンで楽しむ事ができるのです。もちろんインク交換の面倒臭さを含めて万年筆がいいという方もいるので好みの問題だとは思いますが、僕はガラスペンならではの美しさを楽しみながら文章や絵を描く事が大好きです。創造性を掻き立ててくれます。

 制作がなかなか追いつかないそうですね。

 お陰さまで昨年くらいから色々なところから声をかけていただき出品展示をしています。今年の10月くらいまで予約が埋まっているものもあります。先ほどお話ししましたが、ペン先も全て手作りなので精度の高いガラスペンを一本つくるのに、大変な時間がかかります。そのため、作れる数にも限りがあり、大量生産ができません。みな様には制作時間を頂いて注文を受けています。

 これからの目標は。

 このガラス細工を専門とした職人の道を極める事です。昔から代々続く日本の工芸品ではないため、常に自分の極めたい技術や目標を自分自身でみつけて作品を産み出さなくてはならないと思っています。そして少しでも多くの皆さんに、自分が作るガラス細工の世界をみて何かを感じてもらえたら幸いです。

 

データ

東京都生まれ
1994年〜2001年 カナダ滞在
2001年〜2002年 オーストラリア・オセアニア滞在
2003年〜2005年 南米・アジア滞在
2006年 独学で酸素バーナーワークを習得。ガラス制作を本格的に開始
2009年 日本人ならではの繊細さと独自のこだわりをもった制作活動を展開するため「川西硝子」ブランドを立ち上げる