モノを創る 本をつくる 飛騨の木工房めぐり

 11月から「夢の記憶社」「eraku」両サイトで手仕事や本作りに携わる作り手、企画運営者、作家、ライター、編集者の方々に登場いただくインタビューと現場を取材したレポートの連載企画(月2〜4回不定期)をスタートします。

 第1回は飛騨地方で開催された「飛騨の木工房めぐり」のレポートです。

17木工房が力を合わせて
飛騨の木工品の魅力を発信

長野・松本I.Cから
国道158号線で高山市へ

 飛騨は千年以上昔から「飛騨の匠」という言葉に象徴されるように高度な木工技術をもった技術者を多く輩出した土地柄である。

 柳宗悦の「手仕事の日本」(岩波文庫版)にも飛騨について「ここの品物でとりわけ不思議なのは木工具でありまして、全く他の日本のものと類をことにして…」とある。

 11月3日(土)から5日(月)までの3日間開催された岐阜県飛騨市と高山市の若手・中堅の木工の作り手による「飛騨の木工房めぐり 2012」を訪ねた。

 早朝、東京を出て中央自動車道—長野自動車道を抜け、松本I.Cから梓川と並走するよう延びる国道158号線を走った。奈川渡ダムを過ぎ上高地と乗鞍高原の間を縫うように行くと安房峠道路が見えてくる。長野県と岐阜県の県境の安房峠は一面雪景色だった。峠のトンネルを抜けると高山市だ。
 高山の市街地は狭いエリアに江戸時代の面影を残す2つの伝統的建造物群保存地区があり、紅葉シーズンを迎えて多くの観光客で賑わっていた。

 

10年の経験積み作品に自信
15工房が参加してスタート

 

「飛騨の木工房めぐり」は今年で3回目と歴史は浅いが、是非訪れてみたいと思ったのはネーミングによるところが大きい。それほど飛騨、木工のネーミングには抗し難い魅力がある。

「木工房めぐり」誕生のきっかけは、実行委員長の片岡清英さん(kino workshop)の自宅を「水野建築研究所の水野さんに設計していただき、木工作品と私たちの暮らしを見てもらうオープンハウスにした」ことだった。

 翌2009年、自身の暮らしと木工作品を見せる片岡さんのアイデアに刺激を受けた片岡さんを含めて交流のあった13の木工房が「飛騨の木工房の会」を立ち上げた。2010年のスタート時点で2つ増えて15工房になり、現在は飛騨市・高山市の飛騨地方に点在する17工房が参加している。

 メンバーは飛騨の出身ですかと聞くと、片岡さんから「純粋の飛騨出身は2名ですよ」という答えが返ってきた。東京や大阪などの出身者もいるが、ほぼ共通しているのは地元の高山高等技能専門校(現 木工芸術スクール)や森林たくみ塾(高山市清見町)などで家具つくりの基礎を学んだ後、飛騨の家具メーカーや工房で技術を身につけ、独立して工房を構えていることだ。

 この世界で一人前になるにはどのくらいの歳月を要するのだろうか。

「10年ほどの経験があればみんな力を蓄え、個々の色やスタイルができてきます」と片岡さん。

 メンバーが自分たちの作品を訪れる人たちに楽しんでもらえる自信が持てたことも「木工房めぐり」スタートの動機の一つだったそうだ。

 

工房をゆっくりめぐり
飛騨の異次元空間を楽しむ

 

 各地で開かれる手作り市やクラフト展は、作品を一カ所に集めた会場で来場者が作り手と直接触れ合うことができるのが人気の理由でもある。

「飛騨の木工房めぐり」は逆である。

 17の木工房がそれぞれ自分の工房で作品を展示している。工房はJR高山本線の駅名で示すと飛騨一之宮駅から、高山、上枝、飛騨国府、飛騨古川、杉崎駅まで約26キロの間にぽつんぽつんとあり、駅からも遠い。車でもよほど計画を上手に立てないと一日で廻るのは難しい。不便といえばこれほど不便なイベントはそうはないだろう。

 にもかかわらず、パンフレットを見ると「普段はなかなか見ることができない工房をめぐり、作り手の暮らしぶりにふれることで使い手が楽しい時間を共有できるそんな3日間にしたい」とある。
工房と工房を点で結ぶだけのイベントのパンフレットに、なかなかこのようなコメントは書けない。
 この不便さを補って余りあるのが、飛騨高山が持つ磁力だ。

 工房をゆっくりめぐることによって、飛騨高山が持つ都会とは違った異次元の空間を同時に楽しむことができますよ、というメッセージが言外にある。もちろん飛騨の木工作品の作り手としての自負も見えてくる。

 紅葉を眺め、木工作品に触れ、作り手の暮らしも知ることができる「木工房めぐり」。来場者も年々増えて、中には毎年大阪や名古屋、富山など遠方から楽しみに訪れる人もいるそうだ。

「木工房めぐり」を主催する「飛騨の木工房の会」事務局を高山市の飛騨地域地場産業振興センター内に置けるなど環境にも恵まれている。ただし運営にかかる経費はすべて会費でまかなっているとのことだ。

  最後に片岡さんに今後の抱負を聞いた。

「まだまだ三回目ですので、まずは地元で認知してもらい、たくさんの方に来ていただきたいです。そして、私たちが暮らす飛騨のすばらしさを継続的にお伝えしていきたいと思っています」

 今回は片岡さんの工房で話を聞き、夕方数人のメンバーの方と立ち話をして慌ただしく飛騨を後にせざるを得なくかった。「飛騨の木工房めぐり」の本当の魅力を詳しく伝えることができず心残りの旅となった。

 

(取材/熊田一義 撮影/菅又俊世)


 

データ

飛騨の木工房めぐり スタート/開催日 2010年/毎年11月第1週土日月

会 員

北々工房 北川啓市
kino workshop 片岡清英・紀子
家具工房 正 浦西正幸
白百合工房 上野 望
Hitokei 松藤宏幸
木工房 大噴火 清水丈雄
ファニチャースタジオ noco 丸山 薫
remix 渡部継太
kochi(shop) 東 和俊・薫
nem 菅野 健
工房 まめや 鈴木 修
KOZO INTERIOR STUDIO 阿部貢三
造形家 たしまねん 田島 燃
Arts craft japan 渡邊主税・祐子
マキノウッドワークス 牧野泰之
山下木工舎 山下森一朗
ウォールナットファクトリー 福田和也
大鹿野工房 山口 要・博子

主催/飛騨の木工房の会 岐阜県高山市天満町5-1-25 飛騨地域地場産業振興会内 飛騨の木工房の会事務局 TEL:0577-35-0370  FAX:0577-3—3-4325 http://hidamokkou.hida-ch.com mail:jibasan@hidanet.ne.jp