「明日の朝九時までに港に来れる?」と、昔高校の先生をしていた男が声をかけてくれた。
沖合に仕掛けた網を引き上げて魚を獲ろうと言うのだ。十五分遅れで船は海上へ出ていた。冬にしては穏やかな沖の小舟に三人の男が大声で話し合っている。
彼らは、この山の向こうの町の同級生だった。みんな七十歳を三つ、四つ越して家族から解放され、再び子供に返ってしまったらしい。
岬の丘に廃材で小舎を建て、そこへ北欧製の薪ストーブを持ち込んで酒を温めたり、魚を焼いて食べるのだ。
小舎の前の空き地は手づくりのミニゴルフ場だ。最長で百二十ヤード、九ホールも作ってしまった。グリーンはベントの芝生だ.これ以上の練習場はない。
ゴルフ場の右にも、左にも青い瀬戸内海がある。沖に浮かぶ島陰から、いきなり大形線が姿を現し、また遠ざかってゆく。
カミさんや子や孫から逃れて、男たちは再び少年の日に立ち返った。同級生が集まると老人でも何故か子供に返ってしまうらしい。
小春日が三人の背中をじんわりと温めていた。